第9章 少年は剣を取る(DMC4本編直前まで)
ダンテがふらっとビアンカの家を訪れたのは、ちょうど昼下がりのことだった。
「そういえばちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「ん? なんだ?」
ダンテはマグを受け取り、目を瞬かせた。
「スパーダが、アンタらを放り投げて遊んでたって話、本当?」
「……ん?」
ダンテの動きが止まった。
「いや、だから。バージルがネロに同じことしてたんだけど、どうもスパーダがやってたらしくて」
「マジかよ……バージルが?」
「そう。ネロはめちゃくちゃ喜んでたけど」
ダンテは頭を掻きながら、どこか遠い目をした。
「……あー、確かにな。やってたな」
「やっぱり?」
「俺たちがガキの頃、よくやられた。つーか、バージルも覚えてたのか」
ダンテは感慨深げに頷いた。
「で、どんな感じだったの?」
ビアンカが興味津々に身を乗り出すと、ダンテは少し笑いながら話し始めた。
「オヤジはよ、基本的にクールな男だったが……なんつーか、遊び方が豪快だったんだよな」
「ほうほう」
「俺たちがまだちっこい頃、部屋の中とか庭で突然抱え上げられて、気づいたら宙を舞ってた」
「え、結構高く?」
「めっちゃ高く。庭で投げられたときなんか、屋根がはるか下に見えるくらい」
ダンテは指で身振りを加えながら言った。
「バージルは最初はちょっとビビってたけど、俺が喜んでたらそのうち慣れて、むしろ『もっと高く飛ばせ』とか言い出したんだよな」
「へぇ……」
「んで。最終的にはどれくらいの高さまで怖いのを我慢できるかの競争」
ビアンカはくすりと笑う。
「そんなに高く放り投げてたらお母さん、心配しそうだねぇ?」
「母さんは最初『危ないわ』って止めてたけど、オヤジは『問題ない』って言い張ってたな。俺たち、ちゃんとキャッチされてたし」
「なるほどねぇ」
ビアンカは思わず頷いた。
「しかし、バージルがネロにそれをやるとはなぁ……意外と、父親に似てきてんじゃねぇか?」
ダンテはニヤリと笑う。
「まぁ、血は争えないってことだね」
ビアンカも微笑みながら、穏やかな午後の時間を楽しんでいた。