第9章 少年は剣を取る(DMC4本編直前まで)
家の中を駆け回る小さな足音。
「ネロ、前見て、危ない――」
ビアンカが言い終わる前に、ベシャッという鈍い音が響いた。
「わっ!」
ネロが思いっきり床に転んだ。
顔から床に飛び込み、全身を床に打ち付ける。
泣くか? と思った瞬間。
「いた……」
ネロは涙を浮かべながらも、ぎゅっと唇を噛んでこらえた。
ビアンカが駆け寄ろうと腰を上げるも、それよりも早くバージルが無言で近づく。
ネロの首根っこを掴み、ビアンカは「あっ」と思った。
無造作に立たせるのかと思いきや――
ひょい、と持ち上げてそのままふわり、とソファへと放り投げた。
「うわぁっ!?」
ネロは軽やかにソファへ着地。
咄嗟に顔を上げ起き上がり、一瞬驚いたような顔をしたが、次の瞬間、目を輝かせた。
「もっかい!」
「……」
ネロはその表情のままソファから飛び降りて父親の足元まで駆け寄り、バージルはじっとそんな息子を見下ろす。
「もっとやって!」
小さな手をバタバタさせて催促するネロに、バージルはほんの少しだけ目を細めた。
「父親に、よくこれをやられた」
「……スパーダに?」
ビアンカが驚いたように問いかけると、バージルは短く頷いた。
「アイツも?」
ダンテのことだろう。
「ああ」
その答えに、ビアンカは思わず笑った。
「アンタとダンテがちっちゃい頃、同じことやってもらってたんだ?」
「……記憶にある限りではな」
バージルは呟き、再びネロの首根っこを掴むと――
ひょい、と持ち上げ、再びふわりとソファへ投げた。
「わー!!!」
ネロが歓声を上げる。
「ははっ……なんだかいい光景だねぇ」
ビアンカは微笑みながら、ネロが笑う様子を眺めた。
「パパ、もういっかい!」
ネロの無邪気な声に、バージルは無言で応じる。
何度も何度も、ひょい、ふわり。
きっと昔、スパーダもこんな風にして、幼い双子をあやしていたのだろう。
ビアンカは、バージルの表情がほんの少しだけ穏やかになっているのを見て、なんとなく胸が温かくなるのを感じた。