第9章 少年は剣を取る(DMC4本編直前まで)
子供の声は嫌いだった。
甲高く、喧しく、鬱陶しい。
市場を歩けば、母親に何かをねだる幼子の声が耳につき、苛立ちが募る。
訓練場では、剣の握り方すらおぼつかない少年たちが、無駄に張り上げる声が耳障りだった。
必要のない音があまりにも多すぎる。
だが――
「パパ!」
その声が、スッと耳に入る。
喧しさを感じることはない。
鬱陶しさもない。
むしろ、心のどこかがざわめくような、不思議な感覚すら覚える。
小さな手が、バージルの羽織りの裾を引いた。
「見て!」
ネロが得意げに、自分の描いた絵を掲げる。
紙の上には、青いクレヨンで描かれた、ぎこちない線の「剣」。
その横には、大きくそびえる人の姿。
「パパの剣!」
バージルは、一瞬、言葉を失った。なんのことはない、拙く、説明されなければなにかもわからない色と線の集合体。その小さな手で、その青い瞳で、懸命に父の姿をかたどり、絵に込めた。
なんのことはないはずなのに、心が震える感覚があった。
「……そうか」
ようやくそれだけを返す。
ネロは満足げに笑い、絵を今度は母親に見せようと駆けていく。
その後ろ姿を見送りながら、バージルは自分の手を眺めた。
向こうの方から、ビアンカの弾んだ声がネロを誉め、幼子の口から感性や創造性を育むような質問をしているのが聞こえる。こう感じたのね、それがこの色なのね、と。
――子供の声は、嫌いだったはずなのに。
なのに、この声だけは……。
耳を劈くことも、不快に感じることもない。
むしろ、心に染み入るように響くのは、なぜなのか。
いまも、ほら。