第2章 最初の朝
コーヒーを淹れ、カップをそっとテーブルに置く。
「どうぞ、ご主人様」
冗談めかして言うと、バージルは冷めた視線を向けたが、それ以上の反応はなかった。
「……何を企んでいる」
「別に。ただアンタのこと、何も知らないからさ」
微笑みながら言う。すると、バージルはほんのわずかに眉を寄せた。
「知る必要はない」
「あるよ。だって、一緒に暮らすんでしょ?」
言った瞬間、バージルの気配がわずかに変わるのを感じた。そう、彼は「ずっといる」とは言っていない。ただ、「去らない」とだけ言ったのだ。
(だけど、それをこっちのルールに変えるのはアタシの役目だよ)
ビアンカは、彼が黙ってコーヒーを口にするのをじっと観察する。
「……悪くない」
「そりゃよかった」
──まずは、小さなことから。
彼がこの家にいる理由を、一つ一つ増やしていく。いつか、それが「居場所」に変わるように。