第2章 最初の朝
ビアンカは、少しずつ、少しずつ探るようにしてバージルのことを知ろうとしていた。
ある日は、食事。
「アンタ、好きな食べ物ってあるの?」
「何でも構わん」
「何でもって……嫌いなものは?」
「特にない」
(選ばないんだな……)
結局、彼が何かしら感想を言うまで試行錯誤を繰り返し、ようやく「肉料理の方が比較的に食が進む」ことを発見した。
またある日は、読書。
バージルが持ち込んだわけではない、古書店スパーダの蔵書のいくつかを手に取っていた。
「読書が趣味なの?」
「知識を蓄えるのに時間を費やすのは当然だ」
興味を示すのは、主に歴史書や研究書。まるで何かを探し続けているかのようだった。
別の日。
バージルが無言で紅茶を淹れていた。
「……」
「……」
以前、コーヒー派か紅茶派かと聞いたとき、どちらでもいいと言っていた。だが今、彼は自分で紅茶を選んだ。
「ミルク入れる?」
「不要だ」
ふと気づく。
「前にコーヒー飲んだ時もブラックだったね」
「ああ」
(どうやら、甘いものは好まないらしい)
これは重要な情報かもしれない。
さらにある日は、天候の話。
「雨の日は嫌い?」
「嫌いではない」
「じゃあ、好き?」
「特に何も感じない」
(どっちだよ……!)
しかし、その後ふと外を見ている彼の視線が、雨音を聞いてわずかに遠くを見ていることに気づく。
もしかして、過去を思い出しているのだろうか?
またある日。
バージルがふと、ネロを抱き上げようとしたことがあった。
「……」
しかし、慣れない動作に少し躊躇したのか、ネロが不思議そうに彼の顔を見上げていた。
(おお、これは貴重な光景……)
バージルが自分から子供に触れようとすることなんて、滅多にない。
「そういう時は、首を支えてあげるといいよ」
ビアンカがアドバイスすると、ほんの一瞬だけ、バージルが彼女を睨んだ。
「……知っている」
(いや、絶対知らなかったでしょ)
でも、ネロを抱く腕は次第に安定していった。
少しずつ、少しずつ。
ビアンカは、彼の好みも、癖も、そして少しずつ変化していく姿も、観察し続けることにした。