第8章 少しずつ、家族に
朝焼けの光が薄く射し込む庭先。
バージルは、静かに佇んでいた。いつもよりは軽装で、動きやすい服装だ。
伸びた背筋、何らかの想定をして前方を見つめる彼の手に握られた閻魔刀の刃が、陽光を受けて淡く光る。
おもむろに彼はその刀を振りかぶり、振り下ろす。斬撃の刃が飛ぶことはない、あくまで素振りで型の確認をしているといった様子だ。
けれどそれは風すら切り裂くかのような鋭さと正確さを持っていた。
彼は、毎日欠かさず鍛錬を続ける。
どれほど平穏な日々であろうと、それは変わらない。
無心で、すでに完成されているだろう動きを毎日何度もなぞる。
「几帳面な男だよねぇ……」
ビアンカは、家の窓からその様子をぼんやりと眺めながら、マグカップを傾ける。
何かに突き動かされるように、あるいは自らを律するように、彼はただ淡々と鍛錬を積み重ねる。
決して妥協せず、無駄な動きも一切なく、全てが研ぎ澄まされている。
「そんなに鍛えなくても、もう充分強いのにさ」
何の気なしに呟くが、彼が聞くはずもない。
ただ、分かっている。
彼にとってこれは習慣であり、生きるための根幹なのだと。
ビアンカは、少し笑ってマグカップを置いた。
ふと、彼がこちらに視線を向ける。
鋭く、冷静な双眸。
しかし、どこかそれが日常に溶け込んでいることに、ビアンカは安堵を覚える。
少しだけ手を振ると、バージルは何も言わずにまた剣を振った。
ビアンカは思う。
(几帳面で、真面目で、いつでも変わらない人)
だけど、そんな人が家の中に戻ってくるようになったことを、やっぱり嬉しく思ってしまうのだった。