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【DMCバージル夢】貴方と生きる【第二章開始】

第8章 少しずつ、家族に


 バージルが静かに玄関をくぐる。
 鍛錬を終えたばかりの彼は、ほんのわずかに汗を滲ませていた。

 ビアンカはすでに窓際から離れてキッチンに立ち、湯気の立つカップを用意していた。

 さっきまでは窓の外の様子を見ながら、彼が戻ってくるタイミングを計っていたのだ。

 「お疲れさま」

 差し出されたカップを、バージルは一瞥する。

 「……紅茶か」

 呟きながらも、拒むことなくそれを受け取る。

 湯気とともに、かすかに柑橘の香りが立ち上る。

 「運動した後って、温かいものの方がいいらしいよ」

 ビアンカはそう言いながら、彼の向かいに座る。

 バージルは、黙ってカップに口をつける。

 紅茶の味がどうだったのか、表情からは何も読み取れない。

 だが、すぐには置かない。

 それが答えなのだと、ビアンカはなんとなく察する。

 「毎日毎日、よく飽きないね」

 軽く笑いながら言うと、バージルは静かに目を伏せる。

 「鍛錬は習慣だ」

 「そうだろうね」

 ビアンカはカップをくるりと回しながら、彼の様子を伺う。

 「でも、前は家に戻る習慣はなかったんじゃない?」

 バージルの指が、わずかに止まる。

 それでも彼はすぐに何事もなかったように紅茶を飲み干し、カップを置いた。

 「……そうかもしれん」

 それだけ言って、立ち上がる。

 ビアンカは少し口元を緩めながら、彼の背中を見送った。

 「おかわり、いる?」

 ふと問いかけると、バージルはわずかに間を置いて――

 「……あとでな」

 それだけを返して、奥の部屋へと消えていった。

 ビアンカは、肩をすくめる。

 (あとで、ね)

 それはつまり、彼がここに戻ってくるということ。

 当たり前のように、帰ってくる場所になったということ。

 それだけで、少しだけ温かい気持ちになれる気がした。
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