第8章 少しずつ、家族に
ビアンカがいれば、適切な対応を教えてくれただろう。
だが、彼女は今、洗濯物を干しに外へ出ている。
つまり、この状況をどうにかするのは、自分しかいない。
バージルは、ゆっくりとネロの脇の下に手を添え、持ち上げようとする──
が、その瞬間、ネロがバランスを崩し、ふにゃっと前に倒れ込んだ。
「……」
バージルの膝に、ぽてっと顔を埋めるネロ。
「……」
ネロはびっくりしたようにバタバタと手を動かしたが、すぐに安心したようにバージルの膝に顔を擦りつける。
「……ぅあ!」
満足げに声を上げ、再び笑うネロ。
バージルは、何を言うでもなく、ただ黙ってそれを見下ろしていた。
小さく、温かい。
こんなにも小さなものが、自分を求めてくるという事実に、戸惑いと共に、言葉にできない感情が胸の奥に湧く。
「……」
ふと、バージルの唇が、微かに緩んだ。
「バージル?」
外から戻ってきたビアンカが、その光景を見て驚いたように声をかける。
バージルはハッとし、すぐに無表情に戻ると、何事もなかったかのようにネロをそっと抱き上げた。
「……貴様がいない間に、勝手に這い寄ってきただけだ」
「はいはい」
ビアンカはくすくすと笑いながら、バージルの隣に腰を下ろす。
「よかったじゃない、アンタのこと大好きみたいだよ?」
バージルは答えない。
しかし、腕の中で満足そうに笑うネロを見て、彼はほんの少しだけ、いつもより優しく腕を支えていた。