第7章 それからというもの
ビアンカが外出してから、小一時間ほど経った。
彼女に頼まれたのは、「留守番」と「ネロの世話」。
そして今、
「バージル、お前の抱き方、なんかぎこちねぇぞ?」
「貴様よりはまともだ」
リビングでは、双子の兄弟が険悪な雰囲気で向かい合っていた。バージルはソファに座り、ネロを抱きながら静かに揺らしている。しかし、その表情はやや硬い。
「もっとこう、腕に余裕持てよ。そんなピシッとした姿勢じゃ、ネロもリラックスできねぇだろ」
バージルが僅かに視線を落とすと、ネロは小さな手をもぞもぞと動かしていた。
……確かに、少し抱き方が固かったかもしれない。
「……」
バージルは何も言わず、ほんの少しだけ腕の力を抜いた。
すると、ネロは満足したように小さく笑う。
「ほらな?」
ダンテが得意げに腕を組む。
バージルは無言で睨んだが、言い返さなかった。
──結果として、ネロが落ち着いたのは事実だからだ。
「ま、お前も少しは父親らしくなってきたんじゃねぇの?」
「黙れ」
「素直じゃねぇなぁ」
ダンテは苦笑しながら、ネロに手を伸ばす。
「ちょっと貸せよ、俺も抱く」
バージルの目が細まる。
「……貴様に任せるのは不安だ」
「は!? なんでだよ!」
「貴様が雑だからだ」
「ふざけんな! 俺だってちゃんと抱けるわ!」
「ほう、それなら見せてみろ」
バージルは慎重にネロをダンテへ渡す。
ダンテは「ほら、余裕だろ」と言いながらネロを抱き上げる。
ネロは一瞬びっくりしたように目を丸くしたが、すぐにダンテの腕の中で落ち着いた。
「な? 俺だってちゃんとできるんだよ」
「……奇跡だな」
「おい!?」
バージルは腕を組み、ダンテをじっと観察する。
確かに、彼の抱き方は荒削りではあるが、ネロは安心しているようだった。
……認めたくはないが、少なくとも「雑」と言えるほどの扱いではなかった。
「……少しは学んだようだな」
「当然だろ、誰だと思ってんだ」
言い合いながらも、双子の手はしっかりとネロを支え、交互に抱っこしながらあやしていた。
口喧嘩の絶えない兄弟だったが、頼まれた役目だけはきちんと果たしている。
──そのことを、帰宅したビアンカはすぐに理解することになるのだった。