第7章 それからというもの
「……あれ?」
ダンテがカップを口に運び、ふと手を止めた。
ビアンカは、たまたま遊びに来たダンテにも同じコーヒーを淹れていた。シュガーポットも置いて、山盛りのホイップクリームでウインナーコーヒーっぽく。
なぜならいつもは適当に一口飲んで「やっぱコーヒーは苦ぇな」とか言って砂糖をどっさり入れるからだ。しかし今回は違う。
ダンテはしばらくカップを見つめ、もう一口。
ゆっくりと味わい、微かに目を見開いた。
「……なんだこれ」
「ん?」
「普通にうまいんだけど」
ビアンカは目を丸くした。
「……あんた、コーヒー飲めたの?」
「俺もびっくりしてる」
ダンテは真剣な顔でカップをじっと見つめる。
「いつもは苦ぇだけで終わるのに、なんつーか、これは……」
もう一口。
「コクがあるっていうか、なんだ……この感じ」
ビアンカは苦笑しながら、彼のカップを指で示す。
「それ、バージルのために見つけた至高のカスタムなんだけど」
「は?」
ダンテが固まる。
「……まさか」
「まさかの、好みが一致したってことだねぇ」
「……」
「やっぱり双子なんだねぇ」
沈黙が落ちる。
そして、静かに新聞を読んでいたバージルが、ぴたり と動きを止めた。
ゆっくりとカップを置き、新聞を畳む。
それから、ほんの僅かに 眉間に皺を寄せた。
「……気に入らんな」
ダンテが吹き出した。
「お前なぁ! 俺が同じコーヒー好きになっただけで気に入らねぇのかよ!」
「当然だ」
即答だった。
「なにが当然なんだよ!」
「そもそも、貴様のような味覚音痴の偏食馬鹿と好みが合致すること自体が納得いかん」
「言ったな!? いや、俺もびっくりしたけどさ!」
「二度と飲むな」
「なんでだよ!!」
ダンテが食ってかかるが、バージルは既に興味を失ったかのように新聞を開き直していた。
ビアンカはそんな二人のやりとりを見ながら、カウンター越しに微笑む。
「でもさ、同じ好みなんだから、仲良く分け合えばいいじゃん?」
「お断りだ」
「絶対に嫌だ」
即答だった。
「……」
そして睨み合い。
双子の息の合った拒否にビアンカは肩をすくめ、くすくすと笑った。
──バージルの至高の一杯は、まさかの双子で共有されることになったらしい。