第6章 貴方は何が好き?
ビアンカは蒸らしの工程を慎重に終え、濃厚なコーヒーをカップに注ぐ。
「これは、ちょっと面白いよ」
「俺は面白さを求めてはいないんだが」
「いいからいいから」
ベトナムロブスタ。
アラビカとは異なり、圧倒的な苦味と強烈なコクを持つ。
ベトナムではコンデンスミルクを入れて飲むのが主流だが、今回はバージル仕様のブラックで提供する。
バージルはカップを手に取ると、まず香りを確かめた。
鼻を微かにひそめたのが、ビアンカには見逃せなかった。
──嫌な予感。
次の瞬間、彼はひと口だけ含み、すぐにカップを置いた。
「……」
「……ダメ?」
「……粉っぽい」
「えっ、粉っぽい?」
「粗野すぎる」
バージルの言葉に、ビアンカは手帳を開く。
「ベトナムロブスタ:× 粉っぽさが気に入らない。粗野=雑味が多い?」
「苦味は?」
「問題ない」
「コクは?」
「悪くはない」
「じゃあ、何がダメなの?」
「舌に残る」
「……」
ビアンカは何度か頷きながらカップを片付ける。
なるほど、バージルは“洗練された苦味”が欲しいのであって、荒々しすぎるものは好まないらしい。まあ、彼らしいっちゃ彼らしい。納得してしまった。
「いやぁ、奥が深いねぇ」
「無駄なものが多すぎる」
「ハイハイ、次ね」
ビアンカは明日の豆を選ぶべく、戸棚を開けるのだった。