第6章 貴方は何が好き?
次に試すのは、フレンチプレス。
金属フィルターを使うため、豆の油分まで抽出され、コーヒー本来の風味が強く出る。雑味を楽しむか、邪魔と感じるかは人によるが、バージルの嗜好を探るにはうってつけだろう。
ビアンカは慎重に豆を挽き、粗挽きにする。湯を注ぎ、四分間じっくり蒸らしながら、ふわりと広がる香りを楽しんだ。
やがてプランジャーをゆっくり押し下げ、カップに注ぐ。ドリップとは違う、わずかに濁りを帯びたコーヒーが静かに広がった。
「今日はこれ」
バージルの前にカップを置く。彼は、いつものように無言で受け取った。
そして、一口。
……間があった。
ビアンカは息を潜める。
バージルは、わずかに眉を寄せると、もう一口飲んだ。
「……どう?」
問いかけると、バージルは少し考え、珍しく具体的な言葉を返してきた。
「雑味が強い」
「やっぱり?」
彼はカップを置いた。これ以上は飲まないらしい。
(なるほどね……)
バージルは繊細な味の違いを感じ取る方だ。フィルターを通さないこのコーヒーは、彼にとってはノイズでしかなかったのだろう。
「でも、苦み自体は悪くないって顔してたよ」
そう言うと、バージルはじろりとこちらを見たが、否定はしなかった。
フレンチプレスは不合格。だが、これも大事な情報だ。
ビアンカはこっそりと手帳を開き、結果を記録する。