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【DMCバージル夢】貴方と生きる【第二章開始】

第18章 第2章 喪われる


 魔界の暗き大地を踏みしめながら、バージルはその"声"を頼りに進んでいた。

 言葉にはならない、しかし確かに耳に届く喚び声。
苦しげに、縋るように、必死に彼を求める声。

 ——少なくとも、まだ生きている。

 それだけは確かだった。

 さらに、彼の中に流れ込む魔力の感覚が、それを裏付けていた。

 ビアンカと結んだ契約の証が、いまだ断たれていない。

 ならば彼女の命もまた、繋がっているはずだ。

 だが、それがどれほどの猶予を意味するのかは分からない。

 刻一刻と、彼女は魔界の闇へと沈みつつある。

 バージルは歩を速める。その速度はもはや疾走だった。

 刹那、視界の先に捉えた。

 ビアンカが、無数の手に引きずられながらも こちらを見ていた。

 その腕の中には、小さな娘——ヴィオラがしっかりと抱かれている。


「……ッ!」


 バージルは即座に間合いを詰めようとした。

 だが、僅かに届かない。

 悪魔の手が、さらに深く彼女を引きずり込もうとする。

 その瞬間、ビアンカは 死に物狂いの決断をした。


「ヴィオラを、守って!!」


 その叫びとともに、ヴィオラの小さな体が宙を舞う。

 バージルに向かって、まるですべてを託すように。

 彼は反射的に腕を伸ばし、確実に娘を受け止めた。

 小さな身体が彼の胸にすがるように震えている。

 だが、視線を戻したときには、ビアンカの姿はすでに地面へと消えかけていた。

 バージルはすぐさま追おうとする。

 だが、腕の中のヴィオラが、か細い声を漏らし、必死に彼の服を掴んだ。

 怯え、震える小さな娘の体温が、バージルの皮膚に触れる。

「……くそ」

 唇を噛み締めながらも、バージルは一度その場に踏みとどまった。

 このままビアンカを追えば、一瞬でもヴィオラが足手まといになる。場合によっては手を離さねばならない。

 この魔界の中で、それは 絶対に許されない選択肢だ。

 なにより、ビアンカはたった今叫んだはずだ。

 ――ヴィオラを守って、と。


「……」


 一度、大きく息を吐く。

 その目は 未だ闇の奥へと向けられたまま。


「必ず、迎えに行く」


 それは 決意に満ちた誓いだった。
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