第18章 第2章 喪われる
ネロは、目の前で起こった出来事が信じられず、二人がいまのいままでいた場所に駆け寄った。
「母さん!! ヴィオラ!!!」
叫びながら駆け寄るも、すでに遅かった。裂け目は何事もなかったかのように消え去り、ただ冷たい風が吹き抜けるだけだった。
「……ッ!! クソッ!!」
拳を地面に叩きつける。
キリエは震えながら彼の肩に手を置いた。
「ネロ……!」
ネロの肩が小刻みに震える。だが、彼はすぐに立ち上がり、悔しさを噛みしめながらバージルを見た。
バージルは一言も発しないまま、裂け目があった場所を凝視していた。その眼には、冷徹な光が宿っている。しかし、その奥に秘められた怒りは、ネロですら感じ取れるほどだった。
バージルが冷静に呟く。
「……開くことはできるな」
静かにそう言うと、彼はネロに手を差し伸べる。
「ネロ。閻魔刀を渡せ」
「俺も、……」
ネロは咄嗟に同行を申し出ようとするもその言葉は力なく途切れた。歯を食いしばる。行きたいに決まっている。母を、妹を助けに行きたい。
だが、キリエがここにいる。
今ここで無策に突っ込んで、自分まで戻れなくなったらどうする?
ネロは奥歯を噛み締めながら、閻魔刀をバージルに押し出した。
「……頼んだぜ、親父」
バージルは僅かに眉を寄せたが、それ以上の反応は見せず、静かに刀を抜いた。
「すぐに戻る。キリエの安全を確保しておけ」
それだけ言うと、一閃。
次の瞬間、空間が裂けた。
黒い穴の向こう側には、どこまでも広がる不気味な瘴気と、赤黒い地平が覗いている。
バージルは迷うことなく、その中へと踏み込んだ。