第18章 第2章 喪われる
朝の清々しい空気が満ちるフォルトゥナの郊外。2家族そろっての外出に向け、バージル、ネロ、キリエの三人は荷物を運び出していた。
「このくらい俺が持てるって!」
「ネロ、ちゃんとバランス見ないと落ちてしまうわ」
「わかってるって……っわ!」
ネロがキリエにたしなめられながら、荷物の束を抱えてよろめく。そんな様子をバージルは興味もなさそうに横目で流し、無言で車へと向かっていた。
一方、ビアンカは家の中で忘れ物がないかを確認している。
「ヴィオラ、ぬいぐるみは持った?」
「んー!」
母の腕の中で、ヴィオラは元気よく答える。
しかしその瞬間、異様な気配が空間を歪ませた。
バージルは即座に気づいた。
——まずい。
反射的に振り向いた瞬間には、既に遅かった。
自宅の内側と外側を隔てるように、壁のような結界が張られた。踏み出しかけた足を弾かれ、バージルは利き足を引いた。
同時に空間が裂け、そこから無数の漆黒の手が蠢きながら伸びてきた。ビアンカの足元から突如現れたその手は、瞬く間に彼女とヴィオラを包み込んだ。
「ッ!!!」
バージルの目の前で、彼女たちは闇の中へと引きずり込まれていく。
「バージル!!!」
ビアンカが必死に手を伸ばす。ヴィオラも怯えた声を上げる。
バージルは即座に踏み込み、拳で結界を破壊する。
だが間に合わず、二人の姿は虚空へと消えた。
何も残らない。
「……っ」
手を伸ばしたまま、バージルはその場で静止した。
「なんだ、何が起こってる!?」
ネロの叫び声が響く。
キリエも何が起こったかわからない表情のまま硬直していた。
バージルは動かなかった。ただ、彼の周囲の大気が軋み、異様なまでの魔力が滲み出していた。