第16章 平和な日常を
一方、ネロはそのやり取りを見て吹き出しそうになりながらも、さっきの仕返しとばかりにダンテの肩を叩く。
「いやぁ、流石に俺でもあそこまでのは食らったことねぇわ」
「笑いごとかよ、ったく……」
「いいから手加減覚えなよ、オヤジ」
「……次に貴様が騒げば、貴様にも試してやる」
「えっ」
突然自分にも矛先が向いたことで、ネロは一瞬で口をつぐんだ。
ビアンカは呆れたようにため息をつきながら、ヴィオラを抱き上げる。
「もう、いい加減にしなよ。アンタたちがそんなだから、ヴィオラも暴れん坊になるんじゃない?」
母親の腕の中で、ヴィオラがきゃっきゃっと笑う。
「ほら、ヴィオラも笑ってるぞ?」
「いや、たぶんこれ絶対悪い意味の笑いだって……」
そんな騒がしいやりとりをよそに、バージルは再び紅茶を飲み始めるのだった。
「これくらいだってば」
ビアンカが呆れたように微笑みながら、今度はネロの頭を優しく撫でる。
手加減をしっかり覚えさせるために、バージルだけでなくネロにも実践してみせるつもりらしい。
「ん……」
ネロは最初こそむずがゆそうにしていたが、やがて表情を緩める。
母の手がふわりと自分の髪を梳く感触は、幼い頃によく感じたものと変わらなかった。
「……懐かしいな」
ついぽつりとこぼす。
それを聞いたビアンカが優しく微笑み、指先でネロの額に触れる。
「そりゃあ、アンタが小さい頃はよく撫でてたからね」
「……あー……」
ネロは照れくさそうに視線を逸らしたが、撫でられるのを嫌がることはなかった。
むしろ、どこか満更でもなさそうに目を細めている。
「しかし、今日なんでこんな撫でられてんだよ俺は」
さすがに気恥ずかしくなって、冗談めかしてぼやく。
「いいじゃない、たまには」
「そーそー、坊やも素直に甘えときな?」
ダンテが肩を組もうとするが、ネロはすかさず身を引いて回避する。
「ダンテはやめろ、気持ち悪い!」
「おいおい、俺だって撫でるくらいの手加減は──」
「無理」
即答で切り捨てるネロに、ダンテは「ひどい!」と大げさに肩を落とした。
一方、バージルはというと……
「……」
珍しく穏やかな表情で、ビアンカとネロのやりとりを見ていた。