第1章 再会
──そして、その血筋を狙う者が他にもいることも、当然のことだった。
突如として、窓ガラスが砕け散った。
同時に、禍々しい咆哮が響き渡る。
「っ……!」
ビアンカがネロを抱きしめ、後ずさる。
床を踏み砕く勢いで、異形の影が室内へと侵入してきた。
長く鋭い腕、獣じみた脚、そして黒々とした瞳に、ネロを映す悪魔たち。
──狙いは明白だった。
スパーダの血を引く幼子。
バージルは剣の柄に手をかける。
「下がっていろ」
「ふざけないで……!」
ビアンカがネロを庇うように後退する。
その姿に、バージルはふと脳裏にあることを思い浮かべた。
──母エヴァ。
──彼女は、子供たちを守って悪魔に殺された。
同じだ。
まったく同じだ。
愚かなほどに。
「……チッ」
バージルは舌打ちをすると、迷うことなく悪魔たちの前に躍り出た。
閻魔刀を抜き放つ。
一閃。
空間を裂く鋭い刃が、悪魔の一体を両断する。
しかし、次から次へと新たな影が湧き出てくる。
「くそっ……!」
ビアンカが歯を食いしばり、ネロを庇いながら立ち往生している。
バージルは刃を振るいながら、ふと考えた。
──なぜ俺は、こいつらを斬っている?
ネロがスパーダの血を引くからか?
違う。
それだけではない。
「…………」
理解した瞬間、バージルは己の思考を振り払うように、さらに一太刀浴びせた。
ネロがどうであろうと関係ない。
ビアンカがどうであろうと、関係ない。
スパーダの血を狙う悪魔を排除する。
それだけのことだ。
そう自分に言い聞かせるように、バージルは無数の敵を刃の下に沈めていく。
だが、振るう剣の先には、ただ悪魔がいるだけではなかった。
それを庇う、愚かな女の姿もまた──
……その姿に、何かを重ねてしまったことを、彼は決して認めることはなかった。