第15章 魔女と半魔の契約
微かな気配を感じて、まどろみの底から意識が浮かび上がる。
柔らかな何かが背中に触れている。
熱を帯びた吐息が、ゆっくりと肌を撫でていた。
──ビアンカか。
確信しながらも、目を開けることはしなかった。
彼女の気配は穏やかで、それでいて、どこか寂しげだった。
何かを思い詰めている。
そう察しても、すぐに声をかけようとは思わなかった。
──馬鹿め。
地獄に落ちるだと?
俺を巻き込んで?
ましてやそれを、まるで引け目を感じているように囁くのはなぜだ?
あまりに浅はかだ。
貴様は忘れているのか?
俺がどれだけ力を求め、何を手に入れようとしてきたかを。
人であることを捨てることなど、俺にとっては何の障害にもならない。
──それどころか、むしろ甘美な誘いだ。
家族を失うことなく、すべてを手に入れたまま、貴様と共にある道が開かれるのなら。
それを拒む理由など、俺にはない。
俺はただ、貴様が何を思い詰め、何を恐れているのかを知りたかった。
その答えがこれならば──
「……愚か者が」
わずかに身じろぎ、背中越しに呟いた。
ビアンカは気づいただろうか?
目を覚ましたことを、声が届いたことを。
それでも、俺は目を開けない。
今はまだ、言葉を尽くす気にはなれなかった。
ただ、そっと手を伸ばす。
背後の彼女の手を探り当て、指を絡めた。
離しはしない。
どこにも行かせるつもりはない。
貴様がどこへ堕ちようとも、俺は共にある。
それが、俺の選んだ道だ。