第13章 娘
「……旦那様は外に出ていていただけますか?」
産婆の一言に、バージルは静かに眉を寄せた。
「理由を聞いても?」
「男の人は出産の場にはいない方がいいのよ。特にあなたみたいに怖い顔してるとね」
産婆は笑いながら言ったが、バージルは納得がいかない様子でビアンカの方を見た。
ベッドに腰掛け、陣痛に耐えながらも、彼女は額に汗を浮かべて苦笑いを浮かべる。
「アタシが恥ずかしいだけだよ」
その言葉に、バージルはわずかに考え込んだ。
彼にとって「恥ずかしい」という感情は理解しがたいものだったが、彼女が望むのならば無理に残る理由はない。
彼はゆっくりと立ち上がり、「すぐ戻る」とだけ言い残して、家を出た。
──どうするべきか。
こういうとき、男は何をしているものなのか。
ただ待つのは性に合わない。
そこで、バージルは歩き出す。
向かう先は決まっていた。
ネロとキリエの家。
ドアを開けたキリエは、バージルの姿を見るなり驚いたように目を丸くした。
「お義父さん?どうされたんですか、こんな時間に」
「ビアンカが産気づいた」
彼の言葉に、奥から聞こえてきた物音が止まる。
「は?」
バタバタと足音を立てて現れたのはネロだった。
「今、何て?」
「ビアンカが産気づいた」
「うおおおおおおお!?」
叫びながらネロはその場を飛び跳ねるように駆け回った。
「キリエ! タオル! いや、お湯!? 何持って行けばいい!?」
「落ち着いてネロ、私たちが行ってもお産の邪魔になってしまうわ」
「え、いやでも……親父はここに何しに来たんだ?」
バージルは一拍間を置いてから答える。
「……することがなかった」
その返答に、ネロとキリエはそろって絶句した。
そして、しばらくの沈黙の後──
「いや、そこは『娘の誕生を報告しに来た』とか言ってくれよ!」
「……ふむ」
それも間違いではないな、とバージルは静かに頷いた。