第13章 娘
妊娠後期に入ると、ビアンカの動きは目に見えて鈍くなった。
お腹が大きくなりすぎて、座るのも、立つのも一苦労。
歩けばバランスが取りづらく、すぐにため息をつく。
「……うぅ……」
夜、バージルはそんな彼女の寝苦しげな様子を観察していた。
横向きになったり、仰向けになったり、何度も寝返りを打つ。
時折、小さく呻きながら眉を寄せる。
バージルは無言で毛布を整え、枕の位置を直し、時には彼女の背中を軽く支える。
「……バージル」
「何だ」
「……ちょっと助けて……腰が痛くて動けない……」
仕方なく、彼は彼女の肩を支え、ゆっくりと体勢を整えてやる。
「楽になったか?」
「うん……ありがと……」
そう言いながらも、しばらくするとまた寝返りを打とうとして苦しげに呻く。
バージルは一つため息をつき、今度は何も言わずに彼女の体を支え、楽な姿勢へと導いた。
「……不便だな」
「そりゃそうさ……人一人分、お腹に入ってるんだもん……」
それでも、バージルは文句も言わずに彼女の体勢を直し続けた。
どこを支えれば楽なのか、どうすれば苦しくないのか。
彼の手つきはぎこちないが、次第に的確になっていく。
──そして。
「……あっ」
突然、ビアンカの体が強張った。
「どうした」
「違う、これ……陣痛だ!」
一瞬、部屋の空気が張り詰める。
そして次の瞬間、ビアンカは飛び起きようとした。
「無茶をするな」
バージルはすかさず彼女を支え、冷静に体勢を整えた。
だが、ビアンカの呼吸はすでに浅く、額にはじんわりと汗が滲んでいる。
バージルは彼女の手を握り、しっかりと視線を合わせる。
「……準備はできているのだろう?」
「……当たり前さ。二回目だからね」
彼女は不敵に笑った。
「電話しなきゃ……置いてるとこまで連れてってくれる?」
バージルは迷わず彼女の腕を支えながら、今まさに始まろうとしている新しい命の誕生に向けて動き出した。