第13章 娘
ある夜、バージルは寝室の外で微細な魔の気配を察知した。
気配を探ると、先日と同じように、魔界に通じる極小の穴から小さな悪魔が這い出してきている。
──何度目だ。
彼は躊躇なく剣を振るい、悪魔どもを完全に霧散させた。
そのまま、魔の歪みごと消し去る。
気配が消えたのを確認してから、寝室に戻る。
そこには、少し涙目のビアンカがいた。
「また……来てたの?」
「問題ない」
バージルは淡々と答える。
「そうだね……アンタがいてくれるなら、大丈夫……」
彼女はそう言いながら、彼の袖をつまんだ。
バージルは一瞬動きを止める。
──かつての彼なら、こんな仕草に意味を見出すことはなかった。
だが今は、彼女がただ不安で、それでも彼を頼っているのだとわかる。
「……」
彼は何も言わず、ただそのまま隣に座った。
夜の静寂の中、ビアンカはバージルの肩にそっともたれかかる。
「バージル」
「ああ」
「……ありがとね」
バージルは答えない。
しかし、彼女の頭をそっと支えるように手を添えた。
ビアンカは安心したように、そっと目を閉じる。
──今日もまた、悪魔どもの侵入は防がれた。
この家は、バージルの支配領域。
何人たりとも、彼の許可なく侵すことはできない。
そして、彼が守るべきものは、確かにここにあるのだった。