第13章 娘
「バージル、悪いけどちょっとお湯沸かしてくれる?」
「問題ない」
バージルは即座に応じ、魔力を込めた指先で瞬時にヤカンの水を沸騰させた。
「いや、普通に火にかけてくれればよかったんだけど……まあいいか」
ビアンカは苦笑しながらハーブティーの準備をする。
悪阻がひどい彼女のために、できるだけ体に優しいものをと選んだものだ。
バージルはその様子をじっと見ていた。
最近、彼女の体調は良くなったり悪くなったりを繰り返している。
昨日は比較的落ち着いていたが、今日はまたひどくぐったりしていた。
「……食欲はあるのか?」
「うーん、あんまり……」
「ならば何か作ろう」
「バージルが?」
ビアンカは思わず目を丸くする。
「教われば問題ないと言ったはずだ」
「いや、まぁ……そうなんだけど」
バージルは一度聞いたことは正確にこなす。
料理だって例外ではない。
数日前、彼はビアンカの体調が悪いのを見かねて、初めての料理に挑戦した。
結果として、それは意外にも美味しく、ダンテに「信じらんねぇ……料理できんのかよ、お前」と驚かれるレベルだった。
──が。
「でも……手料理っていうか、親父の作る飯って、なんか……こう……軍隊食みたいっていうか……」
ネロのぼそっとした一言に、バージルは僅かに目を細めた。
「文句があるなら食うな」
「いや、うまいんだけどな?」
しかし、ビアンカは少し考えた後、ぽつりと呟いた。
「バージルの料理……ちょっと食べてみたいかも」
その一言で、バージルの行動は決まった。
「ふむ……」
包丁を握り、淡々と食材を切るバージル。
火加減、調味料の配分、盛り付けまで完璧。
余計なことはしない。無駄もない。だが、機能美を極めたような料理が次々と出来上がっていく。
そして──
「えっ、普通に美味しいんだけど?」
ビアンカは驚きながらスプーンを口に運ぶ。
バージルは当然のように腕を組みながら頷いた。
「当然だ」
「……いや、ほんとに。なんでこんなに手際いいの?」
「この程度の作業、鍛錬の一環にすぎん」
その横で、ネロが頬杖をつきながら呟く。
「……スパーダの血、無駄遣いしてね?」
「黙れ」