第13章 娘
そんな中、ふらりと家のドアが開いた。
「よっ、お邪ま──」
いつものように軽い調子でやってきたダンテが、次の瞬間、目を見開いた。
「──ッ!?!?」
彼の視線の先には、まるで当たり前のように料理をするバージルの姿があった。
バージルは冷静な顔でフライパンを振り、スープを温め、見事な手さばきで盛り付けまで行っている。
それを目の当たりにしたダンテの顔が、ゆっくりと驚愕へと変わっていった。
「お、おいおいおい……ちょっと待て待て待て……」
額に汗を浮かべながら、ダンテはバージルとビアンカを交互に見比べる。
「何を間抜けな顔して見ている」
バージルが一瞥するが、ダンテの動揺は収まらない。
「……お前、バージルだよな?」
「他に誰がいる」
「いやいやいや!! だってお前!! 料理してんじゃん!! 俺の知ってるバージルはそんなことしねぇぞ!!!」
「……ダンテ、うるさい」
ビアンカがぐったりと抗議するが、ダンテの衝撃は計り知れない。
「いやいやいやいや、ちょっと待てって!! 俺が知らない間にバージルが主夫になってんだけど!!!」
「……」
バージルはダンテの大騒ぎを一切気にすることなく、用意したスープをお盆に載せ、ベッドの横にそっと置いた。
「匂いは薄い。これなら飲めるはずだ」
「あ……ありがとう……」
ビアンカは恐る恐るスープを口に運ぶ。
──優しい味だった。
「……美味しい……」
思わず呟いた言葉に、バージルは特に反応を見せない。
だが、それを見ていたダンテは、さらに信じられないものを見た顔になった。
「ちょっ……まじかよ……お前、料理まで極める気か……?」
「別に大したことはしていない」
バージルは淡々と答え、後片付けに移る。
その姿を見ながら、ダンテは呆然と天を仰いだ。
──バージルが家事をこなしてる。料理までやってる。
「なぁビアンカ……俺、ちょっと混乱してるんだけど」
「アタシもだよ……」
ぼそりと呟くビアンカの横で、バージルは至って平常運転のまま、静かに食器を片付けていた。
──新たな命と、新たな生活。
それに順応するのは、どうやらバージルが一番早かったらしい。