第13章 娘
フォルトゥナの一角に、やたらと響き渡るネロの怒声と、それをものともせずに真顔を貫くバージル。
そのやり取りを、街の住民たちは「またあの親子か……」と遠巻きに見守っていた。
そんな中、ひときわお気楽な足取りで、その場に現れたのは――
「よぉ、久しぶりだな」
ダンテだった。
久々に姿を見せた彼は、何やら騒がしい現場を眺めながら、「また面白いことになってんな」といった表情を浮かべている。
「ったく、親父があんまりにも冷静すぎて俺がパニックになるんだけど!!!」
「……というと?」
「だから!! 俺に妹ができるんだよ!! こいつら、もうすぐ子供生まれるって!!!」
ネロはダンテの襟を掴みながら、勢いよくまくしたてる。
ダンテは一瞬「……へ?」と瞬きをした後、腹を抱えて爆笑し始めた。
「っはははは!! ちょ、待て待て……! お前の親父が!? こいつが!? もう一人育てんの!? ぎゃはははは!!!」
涙を流しながら膝をつき、肩を揺らしながら笑い続けるダンテ。
その様子をバージルは冷めた目で見下ろしているが、まるで意に介していない。
ネロは苛立ったように、「オイ、笑いすぎだろ!!」と抗議するが、ダンテはますます笑い転げる。
「いやいや……お前……お前さぁ……」
なんとか呼吸を整えたダンテは、ニヤニヤとバージルを見ながら言い放った。
「孫だって秒読みだろうがお前!!」
……その瞬間。
「えっ!?!?」
ダンテの放った一言に、流れ弾を受けたキリエが固まった。
彼女は戸惑いながら視線を泳がせ、頬を染めつつ、口元を押さえる。
「ま、まあ……近いうちには……?」
疑問形だった。
その言葉に、隣のネロは目を剥く。
「おい!? そこでなんで疑問形なんだよ!!?」
「え、えっと……そ、その、ほら……いつかは、ね?」
「いや、具体的な予定とかないよな!? ないよな!?」
慌てふためくネロと、あたふたしながらも縦に頷くキリエ。
それを見て、ダンテはまた腹を抱えて爆笑した。
「っははは!! いいねぇ!! なんかめでたいことが続きそうじゃねぇか!!」
一方で、バージルはそんな光景をしれっとした顔で眺めているのだった。