第13章 娘
フォルトゥナの穏やかな午後、その平和を突き破るようにネロの絶叫が響き渡った。
その声は街中に響き渡り、すれ違った住民たちが「何事だ!?」と顔を上げるほどだった。
「……年甲斐もなく……もうあと数ヶ月で生まれます」
ビアンカは頬を染め、どこか申し訳なさそうに縮こまっている。
とても居たたまれない、といった様子で、視線を泳がせながらそう告げた。
それを聞いたネロは、さらに目を見開く。
「マジで!? ほんとに!? えっ、いや、うそだろ……!?」
完全に取り乱している。
その混乱と驚きと動揺が入り混じった表情は、まるで世界の理がひっくり返ったかのようだった。
彼は信じられないものを見るように、母を指さし、次に隣に立つ父を見た。
……そして、次の瞬間、父親にぎゃんぎゃんと詰め寄った。
「おいおいおいおい!! 親父!! どういうことだよ!? まさか、お前……!? つーか、この歳になって妹ができるってどういう気持ちになればいいんだよ!!!」
バージルはそんな息子の問い詰めに、どこ吹く風といった様子で真顔を貫いている。
その無反応さに、ネロはさらにヒートアップする。
「いやいや、無言貫いてんじゃねえ!! なんか言えよ!!」
しかし、バージルはその場に立ちながら、ただ静かに彼を見下ろすだけだった。
まるで「何を騒いでいる?」と言わんばかりに、シラーッと。
あまりにも動じていない。
(……そりゃまぁ、この人がオロオロしてるのも逆に怖いけどさ!!)
結局、バージルはネロの詰問に対し、ただ一言だけ返した。
「……事実だが?」
そのあまりにもあっさりとした返答に、ネロの額に青筋が浮かぶ。
「そういうことを聞いてんじゃねぇんだよ!!!」
「ならば何を聞いている?」
「お前の心境とか、どう思ってんのかとか、他に色々あるだろ!!!」
ネロが怒鳴り散らしている横で、ビアンカは居たたまれない気持ちになりながら小さくため息をついた。
バージルはやれやれ、といった風に肩をすくめると、最後にこう付け加える。
「……騒がしい男だ」
「誰のせいだ!!!」
フォルトゥナの空に、ネロの叫びがもう一度響き渡った。