第12章 守られること
ビアンカは、ソファの上でごろりと横になっていた。
今日は何も予定のない休日。外に出る気も起きず、バージルの隣でダラダラと過ごしていた。
「バージル、退屈してない?」
「……何故そう思う」
「だってアンタ、暇があったらすぐ修行するでしょ」
「それがどうした」
「ほら、今こうしてアンタの膝枕でゴロゴロしてるのに、どこにも行かないから」
「……」
確かに、バージルは普段であればすぐに稽古をつけるか、本を読んでいる。しかし今は、ただ静かにビアンカの髪を指先で梳いているだけだった。
「行く必要がないからだ」
「ふぅん?」
ビアンカは、バージルの顔を見上げる。
「ねえ、それってさ」
「なんだ」
「アタシと一緒にいる時間も、悪くないって思ってる証拠?」
「……言わせるな」
バージルは小さくため息をついたが、ビアンカにはそれが肯定の意味を含んでいることがわかっていた。
「なにそれ、かわいいじゃん」
「お前が勝手に思うだけだ」
「ふーん、じゃあさ、もうちょっと甘えてくれてもいいんだよ?」
ビアンカはにやりと笑いながら、彼の腰に手を回す。
「……調子に乗るな」
そう言いながらも、バージルは嫌がる素振りを見せなかった。
むしろ、ビアンカが動こうとすると、彼の腕がするりと彼女の腰を抱く。
「え、ちょ、なに?」
「離れるな」
低く囁く声に、ビアンカは思わず息をのむ。
「……バージル?」
「俺のそばにいろ」
「……も、もちろん」
そう言った瞬間、バージルはほんのわずかに微笑んだ。
「ならば、いい」
「なにそれズルい!」
頬を膨らませるビアンカを、バージルは少しだけ強く抱き寄せる。
「黙っていれば、もう少しこうしていてやる」
「……うん」
結局、ビアンカはそれ以上何も言わず、彼の腕の中でゆっくりと目を閉じるのだった。