第12章 守られること
バージルは、暗い部屋の中で静かに目を伏せた。
ベッドの上で眠るビアンカの姿を、ぼんやりと見つめながら、胸の奥に渦巻く感情を意識の下へ押し込める。
「……」
無意識に拳を握りしめた。
何かが軋むような感覚があった。
この夜の静寂が、妙に重たく感じる。
呼吸をするたびに、身体の奥底で熱が燻るような感覚が広がる。
彼女の寝息が穏やかなのが救いだった。
安らかに眠る彼女を見つめるだけで、この手を伸ばしたい衝動が募っていく。
「……っ」
視線を逸らし、ゆっくりと息を吐く。
何を考えている。
こうして隣にいることが当たり前になって久しい。
だが、何かの拍子に、ふと湧き上がるこの衝動。
本能に従えば簡単なことだ。
しかし、それをしてしまえば、自分の中で積み上げてきた何かが崩れてしまう気がした。
ビアンカが、無防備な寝顔を晒している。
彼女は、自分にすべてを委ねてくれているのだ。
だからこそ、自分の衝動を抑えることができる。
そう、抑えられるはずだったのに――
「……ビアンカ」
指先が、彼女の頬に触れそうになる。
ギリギリで踏みとどまり、握りしめた拳を膝の上に置いた。
「……っ」
なぜここまで、彼女に執着するのか。
その答えを、認めるのが怖かったのかもしれない。
自分のすべてが、彼女に握られているようで――
バージルは、再び深く息を吐いた。
この感情を、無意識にセーブしている。
だが、それももう限界に近い気がしていた。