第12章 守られること
「……なあ、ビアンカ?」
カウンターに肘をつき、目の前のコーヒーカップを片手に持ちながら、ダンテは困惑した顔で尋ねた。
「なんで俺、髪をなでつけられてんだ?」
「ちょっと気になっただけ」
ビアンカは満足げに頷きながら、手を払って「よし」と呟く。
「ほら、結構いけるんじゃない?」
カウンター越しに鏡を渡され、ダンテは半信半疑で覗き込む。
そこに映ったのは、いつもの無造作なスタイルではなく、整然と後ろになでつけられた自分の姿だった。
「……」
「どう?」
「……バージルだなこれは」
ダンテは髪をぐしゃっとかき乱し、いつもの乱れたスタイルに戻すと、じとっとビアンカを見つめた。
「で? なんでこんなことしたわけ?」
「いやぁ、アンタとバージルって顔そっくりでしょ?」
「まあ、双子だからな」
「それで、バージルが髪を下ろしてたら、ダンテに見えるんじゃないかなーって思ってさ」
「……ああ、それで?」
「じゃあ逆に、ダンテがバージルみたいに髪をなでつけたらどうなるのかなーって」
ダンテはしばらく沈黙した後、苦笑を浮かべた。
「で、やられたわけか。……まあ、兄貴になれるもんならなってみるのも面白いかと思ったけどよ」
そう言いながら、再びぐしゃぐしゃと髪をかき乱し、元のラフなスタイルに戻す。
「やっぱ俺にはこれがしっくりくるな」
「似合ってたのに」
「いや、俺がバージルみたいになったら、なんか気持ち悪い」
「まあ、違和感はすごかったね」
ビアンカは苦笑しながら頷くと、ダンテの隣の椅子に腰掛けた。
「で、バージルの髪を下ろしたらどうだったんだ?」
「うん、それはそれで良かったよ」
「……」
「……」
「お前らさぁ、仲良しこよしもほどほどにな?」
「なにそれ、嫉妬?」
「俺が? まさか!」
ダンテは大げさに身を乗り出して否定したが、その表情にはどこか呆れと苦笑が入り混じっていた。