第12章 守られること
目を覚ましたとき、ほんの少しだけ寝苦しさを感じた。
理由はすぐにわかった。
バージルが、まるで何かを確かめるように、自分を抱きしめて眠っていたからだ。
相変わらず、腕の力加減を知らない男だな、と思いながら、ビアンカはくすくすと笑ってしまった。
どんな顔をして寝ているのかと視線を上げる。
……と、そこでふと気づいた。
バージルの銀色の髪は、いつものようにきっちりと後ろへ撫でつけられておらず、無造作に額へとかかっていた。
こうして見ると、ますますダンテに似ている。
「……アンタって、髪下ろすとダンテと区別つかないね」
思わずぽつりと呟くと、バージルの眉がほんのわずかに動いた。
どうやら聞こえてしまったらしい。
次の瞬間、寝ていたはずの彼が、薄く目を開ける。
「……今すぐ、その発言を撤回しろ」
寝起きの低い声に、ビアンカはますます笑いを堪えきれなくなる。
「いやぁ、これはもう仕方ないよね。だって双子じゃないか」
楽しげにそう言うと、バージルは明らかに不機嫌そうな顔で、寝ぼけたままの手で自分の髪をかき上げた。
「つくづく喧しい女だ……」
「そもそもさ、なんでそんなに必死に区別つけようとするの? 双子なんだから似てるのは当然でしょ」
「俺と奴を同列に語るな」
言いながら、ようやく完全に目を覚ましたらしいバージルは、腕の力を緩めてゆっくりと身を起こす。
その仕草すらも、無意識のうちに弟と違うものにしようとしているのかもしれない。
「はいはい、ごめんごめん。でも、アンタもたまには髪を下ろしてみたら? 案外似合うと思うよ」
そんなことを言いながら、ビアンカは彼のさらりとした銀髪を指で梳いた。
バージルはむっとした顔をしたが、特に拒否はしなかった。
髪を撫でるビアンカの指先が、やけに優しく感じるのは……寝起きだからかもしれない。
「ま、ダンテと見間違えないように、もっとアンタを観察しておくよ」
ビアンカの冗談めいた言葉に、バージルは深くため息をついたのだった。