第12章 守られること
部屋に灯る淡い光の中、ビアンカは長い髪をほどきながら、小さくあくびをした。
バージルは椅子に腰掛けたまま、その様子をじっと見つめていた。
ビアンカが無防備に肩を回したり、己の首元を指で軽くなぞったりするたびに、彼の視線がほんのわずかに揺れる。
「……何?」
ふと、気づいたようにビアンカがこちらを振り返る。
「いや」
「なんか見てたでしょ」
「……気のせいだ」
「ふぅん?」
ビアンカはにやりと笑い、バージルの膝の上に彼と向かい合うように腰を下ろす。
「そういえば、今日アンタちょっと機嫌いい?」
「……そう見えるなら、お前の錯覚だろう」
「そうかい? 結構自信あるけどなぁ」
ビアンカはクスクスと笑いながら、バージルの胸に頬を預けた。
バージルの指先が、無意識のうちにビアンカの背中を撫でる。
「……ん」
くすぐったそうに身じろぐビアンカに、バージルはわずかに喉を鳴らした。
「お前が、悪い」
「何が?」
「……」
言葉にするのは、少しばかり癪だった。
けれど、この腕の中に収まる彼女の温もりと、ゆるやかに香る髪の匂いが、いつになくバージルの理性を鈍らせる。
ほんの少し、指先に力を込めて背を撫でれば、それだけで彼女の体温が伝わってくる。
「……ビアンカ」
「ん?」
名前を呼んでおいて、次の言葉が出てこない。
どう言葉にすればいいのか、まだ考えていなかった。
ただ、抱きたいと思った。
今すぐにでも、――と。
ビアンカはバージルの胸に顔を寄せ、少し甘えたように微笑んだ。
「……やっぱり機嫌いいよね、アンタ」
「……そうだな」
バージルは静かに、しかし確実に彼女を抱き寄せた。