第12章 守られること

「バージル、ちょっと動かないで」

「……」

珍しく口答えすらなしで素直に従ったバージルの膝の上で、ビアンカは器用に自分の髪をまとめていた。後ろ手に髪をねじりながら、指先で器用に留め具を差し込んでいく。

「よし、できた」

ビアンカは満足そうに結い上げた髪を手で軽く整えながら、改めてバージルの顔を見上げた。

「……なんだ」

「いや、大人しくしてるなと思って」

「貴様がそうしろと言ったのだろう」

「それはそうなんだけど、アンタって基本じっとしてるよね」

「お前のように無駄に動き回らないだけだ」

「なにそれ、アタシが落ち着きないみたいじゃん」

「……実際、そうだろう」

バージルは至極まっとうなことを言ったつもりだったが、ビアンカは「ちょっとそれは言いすぎじゃない？」と不満げだ。

彼女が抗議しようとした、その瞬間だった。

バージルの指が、不意にビアンカの髪に触れる。

「なに？」

「崩れている」

言うが早いか、バージルの長い指が器用に彼女の髪を整え直す。