第12章 守られること
バージルの朝は、いつもより少し遅れてやってきた。
カーテンの隙間からこぼれる陽の光が部屋を照らし、静けさの中に鳥のさえずりが混じる。
ベッドの上では、ビアンカがバージルのすぐ隣にくっついたまま、微動だにせず眠っていた。
実を言うとバージルは、いつも通りの時間に目を覚ましていた。
とはいえまだ布団から出る気にはならず、珍しく惰性でそのまま横になっている。
理由は簡単だった。
ビアンカが、腕にしがみついて離れない。
「……おい」
微かに囁くように呼んでみたが、返事はない。
完全に熟睡しているらしい。
バージルは、ため息をついた。
無防備に寝息を立てる彼女の髪を指先でなぞる。彼女の髪の束が、朝陽に照らされてきらめいた。
「ん……」
微かな声とともに、ビアンカが身じろぐ。
バージルの腕にぎゅっと力を込め、さらに顔を埋めるようにして顔を押し付けた。
「起きる気はないのか」
「……ない」
思ったよりもはっきりした答えが返ってきた。
「貴様という女は、手がかかる」
「そう言いながら、アンタも動く気ないでしょ」
ビアンカは目を閉じたまま、くすりと笑う。
バージルは何も言わなかったが、それが肯定の意味を含むことをビアンカは知っていた。
「今日は、何もしない日ってことでいい?」
「体が鈍る」
「いいじゃん、たまには」
そう言いながら、ビアンカはバージルの頬に手を伸ばし、指先で軽くなぞる。
「……」
バージルは少しだけ眉をひそめた。
「何をしている」
「アンタの顔、よく見たらほんと整ってるよねーって思って」
「……何の話だ」
「あはは、自覚なし?」
ビアンカは悪戯っぽく微笑み、すっと顔を近づける。
「ねえ、キスしてもいい?」
「……勝手にしろ」
小さく息をついたバージルだったが、次の瞬間、額に柔らかな感触が落ちる。
「ん。ありがと」
ビアンカは満足げに微笑み、そのまま再び彼の腕に収まる。
バージルは、ふっと短く息を吐いた。
「まったく……お前という女は、本当に」
呆れながらも、どこか諦めたような声音だった。
しかしなんやかんや思いつつもバージルはもう一度目を閉じ、しばらくの間、静寂の中で彼女の体温を感じていた。