第12章 守られること
冗談のつもりだった。でも、ふと現実味を帯びた瞬間、ビアンカの胸に冷たいものが流れ込む。
(もし、女の子が生まれたら)
魔女の末裔。
魔女の血は代々女にのみ受け継がれ、同時にその血を継ぐ者は宿命を背負う。
ビアンカ自身は、その宿命から逃れようともがき続けた。
そして今、どうにかそれを振り払ったと思っていた。
でも、もし生まれるのが女の子だったら?
自分と同じ苦しみを味わうことになるのではないか?
「……」
ビアンカは、自分の腹に置いた手をぎゅっと握りしめた。
(……いや)
そもそも、ネロが生まれた時点で、自分の血統は終わっているのかもしれない。
魔女の血は、本来女しか生まれない。
それなのに、ネロが生まれた。
そこにバージルという「半魔」の血が混じったことで、すでに系譜は変質している。
ならば、たとえ女の子が生まれたとしても、彼女は「魔女」にはならないかもしれない。
(……でも、それは確証があるわけじゃない)
自分の娘が、もしも魔女としての資質を持っていたら?
そのとき、自分は何ができるのか?
ビアンカは、自然と隣にいるバージルを見た。
強く、冷徹で、そしてどこまでも孤独を恐れない男。
でも、同時に自分と契約を結び、命を分け与えてまで生かそうとしてくれた男でもある。
もしも自分の娘が魔女として生まれたら、彼はどうするのだろう。
いや、それよりも
「アンタは……もし女の子が生まれたら、どう思う?」
問いを受けたバージルは、しばらく沈黙したまま、ただビアンカを見つめていた。
まるでその言葉の意味を慎重に咀嚼しているかのように。
やがて彼は、ふっと目を伏せ、ゆっくりと息を吐いた。
「……特に、何も」
ビアンカは、彼のそのあまりに素っ気ない返答に肩の力が抜ける。
(まったく、アンタらしいね)
不安を抱えながらも、どこか笑ってしまいそうになった。
「なによ、それ。可愛くて仕方ないとか、思わないわけ?」
「言うと思うのか?」
即答。
心底呆れたような声に、今度こそビアンカは笑ってしまった。
(まぁ、そう言うと思ったけど)
けれど、それでも彼なりに考えてくれたのだろう。