第12章 守られること
引っ越し作業を終え、ビアンカとバージルが家へ戻ってきた頃には、すでに日が落ちていた。
フォルトゥナの夜風が、肌を撫でる。
長年慣れ親しんだはずの我が家なのに、どこか違って見えた。
「……なんだか、がらんとしちまったね」
ビアンカは、小さく息をつきながら呟く。
ネロが生まれてからずっと、彼の気配があった家。
彼が成長し、笑い、怒り、騒ぐ声が響いていた場所。
それが今、静寂に包まれている。
寂しさを覚えずにはいられなかった。
だが、バージルは何も感じていないかのように、当たり前のように言う。
「オレはこれくらいが落ち着くが」
まったく、この男は……本当に変わらないね。
ビアンカは、苦笑しながら彼の横顔を見つめる。
ネロは巣立った。
フォルトゥナの街でキリエと共に、孤児院を営みながらこれからを生きていくのだろう。
ビアンカは、引っ越し作業の最後にキリエを抱きしめながら言った。
「ネロのこと、どうぞお願いね」
キリエはしっかりと頷き、そしてネロも照れ臭そうにしながらも彼女の手を取った。
ネロが自立のことを口にし始めたときから、寂しさはあった。
だが、それと同時に、彼が彼自身の人生を歩み始めたことを、誇りにも思っていた。