第12章 守られること
「──俺、自立しようと思う」
その言葉に、ビアンカは一瞬だけ目を瞬かせた。
横に座るバージルも、カップを持つ手を止めている。
「……ふぅん、急にどうしたのさ?」
努めて平静を装いながらも、ビアンカは内心で驚きを隠せなかった。
「キリエと一緒に、孤児院をやりたいんだ」
ネロの目は真剣だった。
「教団が崩壊してから、行き場をなくした子供たちがいる。キリエもずっと気にしてて……俺も、あいつの手伝いがしたい」
「そう」
ビアンカはゆっくりと息を吐いた。
「自立ってことは、当然この家も出るんだよね?」
「……ああ」
「お金は?」
「なんとかする」
「生活は?」
「やれる」
「何を根拠に?」
「……覚悟、かな」
その言葉に、ビアンカはふっと笑った。
「まったく、どこでそんなにしっかりしちゃったのさ」
ネロは少しバツが悪そうに視線をそらした。
「キリエと一緒にいると、何でもできると思えんだよ」
「ふぅん?」
意味ありげに微笑むビアンカをよそに、ネロはバージルの方をちらりと見る。
「……親父は、何も言わないのか?」
バージルは少しの間沈黙した後、静かに口を開いた。
「……お前の判断だ。好きにしろ」
その声には、否定も肯定もなかった。
ただ、ネロという存在を信じているからこそ、余計な言葉を挟まないといった風だった。
「ま、アンタの父親はそんな感じだよ」
ビアンカは肩をすくめる。
「でも、ネロ。本当に困った時は、ちゃんと帰ってくるんだよ?」
「……ああ、ありがとう」
そうして、急な宣言ではあったがネロの自立が決まった。