第12章 守られること
ビアンカは、ふと気づく。
いつからだろう。
自分が、「バージルがいれば大丈夫」と思うようになったのは。
かつては、彼の存在はただの異物だった。
いつ出て行ってもおかしくない、仮住まいのような距離感。
それが、いつの間にか変わっていた。
彼は何も言わない。
余計なことを語ることもない。
けれど──
些細な瞬間に、確かにそこにいる。
街でナンパに絡まれた時も。
台所でジャガイモを落とした時も。
夜の静寂の中、彼が気づいていたはずの、見えない悪魔の気配も。
気づけば、彼の背があった。
何も言わずに、ただ立っているその背が。
確かに彼女を守っていた。
──バージルがいれば、大丈夫。
それは、確信だった。
揺るがないものとして、彼女の中に根付いていた。
「……なんだ」
隣に座るバージルが、ビアンカの視線に気づいて目を細める。
彼女は肩をすくめ、微笑んだ。
「別に。ありがと、って思っただけ」
「……」
バージルは何も答えなかったが、それ以上何かを問うこともしなかった。
静かな夜の空気の中、ただ、いつもと変わらない時間が流れていく。
その時間が、何よりも心地よかった。