第11章 第1部 エピローグ
翌朝、ネロはキリエの家から戻ってきた。
昨夜の出来事を伝えるために、彼女の家に顔を出していたのだ。
クレドもようやく落ち着きを取り戻しつつあるらしい。
キリエもようやく安堵した表情を見せ、昨日までの緊張が少し解けたようだった。
そんな彼女を見て、ネロもまた安心した。
しかし帰宅して、家の空気が異様に重いことにすぐ気づいた。
「……なんだ、この空気」
両親が、今まで見たことがないくらい、ぎこちない。
バージルは珍しく視線を逸らし、ビアンカはビアンカで、どうにも落ち着かない様子でそわそわしている。
食卓についても、ふたりの会話はやたらと間が空く。
しかも、微妙に目が合うと、どちらも不自然に視線を逸らす。
(付き合いたての高校生かよ……)
ネロは、心の中で盛大にため息をついた。
「なんで、昨日から急に付き合い始めたみたいな空気になってるんだ」
思わず、言葉が口をついて出る。
ビアンカは咳払いし、バージルは一層無言になった。
ネロは「勘弁してくれよ……」と頭を抱える。
あれだけ長く一緒にいたのに、今さらそんな新婚みたいな雰囲気を出されるのは、息子としては正直いたたまれない。
なんとも居心地の悪い空気の中、ネロは苦い顔で朝食をかきこむのだった。