第3章 命は続く
「抱っこしてみる?」
不意にかけられた声に、バージルはゆるく顔を上げた。
ビアンカが、笑みを含んだ目でこちらを見ていた。
「……俺が?」
思わず問い返したバージルに、ビアンカはくすくすと喉を鳴らしながらベビーベッドに手を伸ばす。
「そう、アンタが。ネロはアンタの子なんだから」
彼女が優しく抱き上げると、ネロは小さな鼻を鳴らして、ふにゃりと落ち着きを取り戻した。
ビアンカは、慎重に、けれど迷いなくバージルの腕を取る。
「こうやって腕を支えて……ほら、頭をちゃんと支えないとね」
抵抗する理由もなく、されるがままに両手を差し出すと、驚くほど軽いものが腕の中に収まった。
ネロは、ふにゃふにゃと身じろぎしながら、小さな指をわずかに動かす。
バージルはそのあまりの軽さに、思わず息を止めた。
「……」
小さな命が、腕の中にいる。
それはあまりにも不思議な感覚だった。
ビアンカが覗き込む。
「どう?」
「……何がだ」
「そりゃあ、初めて抱っこする気分は?」
バージルは答えられなかった。
わからなかった。
ただ、腕の中の温もりと、小さな体の鼓動だけが、確かにそこにあった。