第3章 命は続く
ふぎゃ、ふぎゃ──と、か細い泣き声が部屋に響く。
バージルはベビーベッドの脇に立ち、その小さな生命を不可思議なものを見るような目で見下ろしていた。
赤子は、弱々しく手足をばたつかせ、頼りない動きで宙をかく。握りこぶしはふにゃりと力がなく、今にも崩れてしまいそうなほど儚い存在に見えた。
(これが、俺の──)
思考の中で言葉が途切れる。
この手で何度も悪魔を斬り伏せてきた。死と隣り合わせの修羅道を歩み、血に濡れた戦場を渡ってきた。
そして今、そんな自分の前にいるのは──
あまりにも無力で、あまりにも小さな存在だった。
「……」
バージルはただ黙って見つめる。
赤子は泣きながら、ぎこちない動きで手を伸ばした。
まるで目の前に立つバージルに、何かを求めるかのように。
その手が何を望んでいるのか、彼にはわからなかった。
だが、その小さな指が宙を彷徨いながら、何度も何度も掴もうとする姿を、バージルは無意識に目で追っていた。