第10章 神と、仔等(DMC4原作沿い)
それからどれくらい経っただろう。≪神≫が苦しみながら墜落し、額の宝玉が裂ける。
そこから飛び出してきたのはネロだった。
彼の腕には、キリエがしっかりと抱えられている。
彼女はまだ不安げな表情を浮かべながらも、ネロにしがみついていた。
その姿を見て、ビアンカはすぐに察する。
(……ふふ、いい感じになったみたいだね)
母親として、少しだけ誇らしい。
ネロは瓦礫の上に降り立つと、キリエをそっと地面に降ろし、改めて向き直る。
その視線は、バージルとビアンカへと向けられていた。
「親父、母さん……聞きてえことが山ほどあるんだけど」
当然だろう。
ダンテとは誰なのか。
ビアンカを言いがかりのようにとらえた教団の思惑は。
なぜ自分に今まで伏せられていたことがあるのか。
ネロが知るべき真実は、まだ山ほどある。
ビアンカはすぐに理解し、「それはね……」と口を開きかけたその時だった。
≪神≫が、再起動を始める。
その中心で、サンクトゥスが見苦しく足掻く。
「これで終わると……思うなァ!!!」
まだ諦めていないのか、とダンテが肩をすくめる。
バージルもまた、冷ややかに幻影剣を構えかけた。
しかし――
「俺が落とし前をつける」
ネロが、前に出る。
その目には、もはや迷いはなかった。
「……フン」
バージルはわずかに目を細め、剣を下ろす。
「ならば勝手にしろ」
その言葉には、明らかに信頼が込められていた。
ネロは軽く笑い、再び≪神≫へと向かって跳躍する。
その後ろ姿を見送りながら、ダンテがニヤリと笑う。
「やっぱアンタらの息子だな」
そして、ちらりとバージルとビアンカの方を見て、楽しげに言った。
「なあ兄貴? お前もなんだかんだで家族やってるじゃねえか」
バージルは無言でダンテを睨むが、その顔はどこか呆れているようでもあった。
ビアンカは、そんな二人を見ながら、遠くのネロの姿を目で追う。
(知らない間に、こんなに立派になって……)
感慨深い。それは母親としての誇りであり、少しの寂しさでもあった。
だが、今はそれを噛みしめる暇はない。
彼女は静かに祈るように手を組み、息子の戦いの行方を見守るのだった。