第10章 神と、仔等(DMC4原作沿い)
「起きろ、ネロ」
バージルは、迷いなく閻魔刀を構えた。
風を切る音が、世界のすべてを貫くように響く。
狙うは――
≪神≫の胸の宝玉。
息子が眠る、≪神≫の中枢機関がその奥にある。
「俺の子なら、そんな無様な姿を晒すことは許さん」
その言葉と共に、閻魔刀を投擲する。
刃は宝玉を貫き、砕き、その最奥へと突き進む。
封じられていた魔力が解放される。
そしてネロの元へと、刀が届いた。
「……貴様がどんな思いで、なんのために俺に力を求めたかを思い出せ」
機械仕掛けの拘束が、わずかに揺れた。
巨大な石の神の中で、何かが蠢く。
動力部分の裂け目から、ひとつの腕が伸びる。
悪魔の力を宿した、ネロの腕。
それは迷いなく、閻魔刀の柄を掴み……
「うぉおおおおッ!!」
ネロは、閻魔刀を引き抜いた。
青い輝きが爆発する。
その瞬間、彼を縛っていた拘束が弾け飛んだ。
ついに、自由を取り戻したのだ。
そして動力源を失った≪神≫の巨体は、もはや支えを失い、街へと墜落していく。
バージルは、一瞬それを見下ろし、そしてコートの裾を翻し、地上へと戻るために空飛ぶがれきのヘリをけり、一気に高度を下げる。
向かうは、ビアンカの元。
バージルが戻ると、ビアンカは最初の場所から一歩も動くことなく待っていた。
「バージル……!」
彼の姿を認めた瞬間、彼女は駆け寄る。
だが、バージルは静かに首を縦に振った。
「問題ない。ネロならやり遂げる」
その言葉を聞いて、ビアンカは大きく息を吐いた。
「……ありがとう」
彼女の声には、安堵が滲んでいる。
そして、彼を見上げる瞳に、僅かな不安の色が混ざった。
「アンタの方は? アタシとの契約で、おかしなことになってない?」
そう言って、伸びてくる彼女の手。
その手が、バージルの頬に触れる。
彼は、それを拒絶しなかった。
むしろ、そっと自分の手を重ねる。
言葉はなかった。
しかし、確かにバージルの心の奥で、ひとつの思いが生まれていた。
『お前を失わずに済んで、良かった』
その言葉を、口にすることはなかった。
だが、静かに重ねた手の温もりが、すべてを物語っていた。