第3章 命は続く
静かな昼下がり。
窓際の椅子に座り、目を閉じて休んでいるらしいバージルの姿があった。
ビアンカは彼の様子をちらりと確認しつつ、そっと歩を進める。
特に用事があるわけではなかった。ただ、こうして落ち着いた彼の表情を見ることができるのは珍しいことで、なんとなく、その近くに行きたかった。
しかし、あと数歩というところで──
空間が揺らぎ、青白い光が閃いた。
──幻影剣。
彼の周囲に、鋭く並んだそれを見て、ビアンカは息を呑む。
完全に無意識だろう。寝ていたわけではなかったのか、それとも本能的に察知したのか。
それでも、バージルは目を開けず、姿勢を崩さず、まるで普段通りのように微動だにしない。
「……」
ビアンカは立ち止まり、苦笑した。
(まだ、気を許されてないんだなあ)
あまりにもわかりやすい反応だった。彼が今もなお、警戒を解いていないことを示している。
だが、それ以上に、彼が ここにいる という事実のほうが、ビアンカには大きかった。
(それでも……彼は、ここにいてくれてる)
それがどれほどの意味を持つのか、彼自身は気づいていないかもしれない。でも、ビアンカにはわかる。
彼は、まだここにいる。
ビアンカはそっと一歩下がり、幻影剣の気配が薄れるのを待ってから、小さく息を吐いた。
「……おやすみ、バージル」
そう小さく呟いて、彼の視界に入らない場所へと静かに戻っていった。