第3章 命は続く
ビアンカがキッチンで片付けをしていると、ふと背後で奇妙な気配を感じた。
「──え?」
振り向くと、バージルがネロの前に立っている。
そして、そのすぐ目の前に、青白く輝く幻影剣が一振り、静かに宙に浮いていた。
「ちょっ、なにやって──!?」
思わず止めに入ろうとするが、次の瞬間、ネロがきゃっきゃと嬉しそうに手を伸ばし、幻影剣の周りをぺたぺたと触っているのが目に入った。
ビアンカの足がピタリと止まる。
「え……?」
幻影剣は殺傷力のあるもののはず。だが、ネロの小さな手が触れても、それはまるで空気のように優しく揺れるだけで、彼を傷つける様子はない。
「……魔力に親しんでいるな、生まれつき」
バージルが静かに言う。
「魔力の流れに適応し、触れることに違和感を覚えていない。素質としては悪くない」
まるで戦士の才能を見極めるかのような言い方だったが、ネロはそんなことは気にも留めず、純粋に楽しげな笑い声をあげている。
ビアンカは、思わず肩から力を抜いた。
「……アンタの子だからね」
バージルが軽く眉を動かした気がしたが、特に反論はしなかった。
ネロは幻影剣を指でつつきながら、その光の揺らめきを不思議そうに眺めている。
バージルはその様子をじっと見つめながら、まるでひとつの確認を終えたかのように、幻影剣をゆっくりと消した。