第10章 神と、仔等（DMC4原作沿い）

　しかし、ネロの視界はダンテしか見えていなかった。　

　拳を振るうが、ダンテはあまりにも軽々とそれを躱す。

　「――おっと」

　まるで戯れるかのように、ネロの攻撃を紙一重で避け、さらには軽くカウンターを入れる。

　「ぐっ……！！」

　その一撃だけで、ネロの身体が吹き飛ばされた。

　「ちっ……！」

　床に転がりながら、ネロは歯を食いしばる。

　（こいつ……強い……！）

　立ち上がろうとするが、ダンテはそれ以上、相手にする気はないらしかった。

　「じゃ、またな」

　そう言い残し、彼は再び天窓へと跳躍し、外へと消えていった。

　「待て！！」

　ネロは叫ぶが、時すでに遅い。

　大聖堂には、ただ混乱と荒れ果てた空気だけが残された。

　──その時、クレドたちが戻ってきた。

　キリエはすぐに床に転がるボロボロの小箱を拾い上げ、中身をそっと確認する。

　「……！」

　中のネックレスは無事だった。

　安心したように微笑むと、彼女はそのまま胸元にかける。

　ネロはその様子を横目で見ながら、ホッと息をついた。

　だが、すぐに異変に気づく。

　――クレドが、剣をビアンカに向けていた。

　「ビアンカ……申し訳ない」

　クレドの声は、決して冷たいものではなかった。

　「しかし、下手人の関係者であるのなら……私は貴方を見逃すことはできない」

　「ッ！！？」

　ネロは驚愕し、ビアンカは静かに目を伏せた。

　「待てよ……！」

　ネロが駆け寄ろうとするが、すでに周囲には騎士たちが取り囲んでいた。

　すべての剣先が、ビアンカに向けられている。

　ビアンカはゆっくりとネロの方を向いた。

　彼女の表情は、悲しげではかなげだった。おそらく、咄嗟とはいえ彼の名を叫んでしまったことでいらぬ誤解を招いたのだ。

　「母さん……っ！」

　「ごめんなさい、ネロ」

　彼女は囁くように言う。

　「でも、信じて」

　ネロの叫びも虚しく、ビアンカは剣に囲まれたまま、捕らえられていくのだった。