第9章 少年は剣を取る(DMC4本編直前まで)
フォルトゥナの教団診療所。
窓の外では冷たい風が吹き、夜の静寂が広がっている。
しかし、その病室の中だけは、重く張り詰めた空気が満ちていた。
ネロはベッドに座り、包帯で巻かれた自分の腕をじっと見つめていた。
右腕──かつては何の変哲もない、自分の一部だったそれは、今は異形の姿へと変貌していた。
悪魔のような黒い皮膚、鋭い爪。
動かせば、まるで異物のように感じるのに、それは確かに自分の身体の一部だった。
「……」
「ネロ……」
キリエが震える声で呼びかける。
彼女はずっとネロのそばにいた。
彼がここへ運ばれてから、彼が目覚めるまで何時間も泣き腫らした目で、ただ彼の無事を願い続けていた。
「ごめんなさい……私がもっと早く気づいていれば……!」
「……キリエ」
ネロは口を開くが、何を言えばいいのか分からなかった。
慰めようにも、今の自分にはその余裕がない。
自分の体に何が起こったのかすら、理解できていないのだから。彼女から腕を隠すので精いっぱいだった。
すると、その場にいたビアンカが、キリエの肩を優しく抱いた。
「キリエ、ちょっと外でお茶でも飲もうか」
「で、でも……」
「いいの。アンタのせいじゃないよ」
優しく、それでいて決して否定しない言葉だった。
「……」
キリエはしばらく躊躇ったあと、ビアンカに導かれるように席を外した。
扉が閉まり、病室にはネロとバージルだけが残る。
静寂が訪れる。
ネロは、重い呼吸をしながら視線を落とした。
「……親父、オレ……」
掠れた声だった。彼は父親の目の前で、震える手で包帯を解いた。バージルは息子の右腕を見て、深い息を吐いた。同じなのだ、バージルがデビルトリガーを引いたときの肌の質感と。つまりこれは……。
「オレの腕、これ……なんなんだ……?」
バージルは、彼の問いにすぐには答えなかった。
ただ、椅子に腰を下ろし、腕を組み、じっとネロを見つめる。
その静かな眼差しに、ネロは不安と期待が入り混じるような感覚を覚えた。
その問いに、バージルは 微かに息を吐いた。
そして、静かに立ち上がる。
ネロは 眉をひそめた。