第9章 少年は剣を取る（DMC4本編直前まで）

　バージルは、静かに立っていた。

　視線の先には、一人の少年。

　——ネロ。

　まだ若く、血気盛んな14歳。
　だが、その腕は 確実に鍛え上げられてきている。
　最初は 剣を振るうことさえ覚束なかった。
　体格も小さく、受け流せばすぐに吹き飛んでいた。

　——だが、今は違う。

　ネロは既に 並の剣士を圧倒する技量を身につけていた。
　力だけではない。
　動きが研ぎ澄まされている。

　——そして、何より。

　目が、変わった。
　幼い頃は、ただ闇雲に振り回していた。
　強くなるために、がむしゃらに剣を振るうだけだった。
　だが、今は 違う。
　相手の動きを読み、最適な一手を選ぼうとしている。
　それが、まだ未熟な試行錯誤の連続だとしても——
　"考えながら戦う" という習慣が、確かに身についていた。

　（……なるほど）

　バージルは、微かに目を細める。
　このまま鍛錬を続ければ、いずれ——

　「行くぞ！」

　ネロの声とともに、地を蹴る音が響く。
　視線を戻せば、ネロの剣が 一直線にこちらへ迫っていた。
　バージルは、静かに閻魔刀を抜く。

　——試してみるか。

　"どこまで成長したのか" を。

　刹那、音が弾けた。
　ネロの剣が 火花を散らしながら閻魔刀とぶつかる。
　その衝撃は、以前よりも 遥かに重い。

　「ッ……！」

　——だが、まだ足りない。

　刃を滑らせ、ネロの剣筋を外し、肘で彼の腹部を打つ。

　ネロは吹き飛び、地面を転がった。

　苦しげに咳き込むネロ。

　だが、彼は すぐに起き上がる。

　バージルは、それを 黙って見下ろしていた。

　「……今のは？」

　ネロが 歯を食いしばりながら問う。

　「受け流した。剣の力を逃がし、反撃する動きだ」

　「……クソッ、全然見えなかった」

　「ならば、見えるまで鍛錬を続けろ」

　バージルは 淡々と告げる。彼の身のこなしはまだ、完成には程遠い。

　だが、この年齢でここまで伸びるのなら、

　（……いずれ、俺と並び立つ日が来るかもしれんな）

　バージルは 閻魔刀を鞘に収めながら、静かに息を吐いた。

　「立て」

　ネロは 悔しそうに拳を握りながらも、しっかりと立ち上がる。

　その姿に、バージルは 確かな"期待" を覚えていた。

　いずれ、"本物" になる日が来るだろう。