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【DMCバージル夢】父と子と

第3章 閑話休題


「──……魘されてたから、起こしてやろうかと思っただけじゃないか」

勘弁してよ、と言う彼女の低い声はひきつっていた。
無理もない、今は夜中。しかもそこはバージルが借りている部屋で、そして彼に閻魔刀を喉元に突きつけられていれば命の危機を感じるのは当然のことだ。そして実際、バージルが少し、そうほんの少しだけその刀に力を込めるだけでこの女はいとも簡単に死んでしまうことだろう。

「俺に、余計な真似を、しようとするな」

一つ一つの言葉を切りながら低く唸る。その台詞に殺気すら籠るのは、半ば八つ当たりのようなものだった。今しがた見ていた夢が、あまりに胸糞が悪かったから。

「次は殺す」
「わかったから、とりあえずその物騒なものをしまってくれないか」

不機嫌そうに眉間にしわを寄せたまま軽く切っ先を引いてやれば薄く傷がつき、一筋だけ血が線を描いた。ビアンカの柳眉が痛みからか顰められるが知ったことではない。

「『置いていかないでくれ、母さん』」

傷口を摩りながら彼女は囁いた。バージルはそれを聞いて思わず息を詰める。ギロリとそちらを睨めば彼女はもはやいつも通りのほほ笑みを浮かべていて。

「案外可愛い寝言が聞こえてくるなと思ってさ」
「本当に殺されたいらしいな」

唸るようにそう噛み付くのは、その寝言に心当たりがあるからだ。
彼が見る悪夢はいつだって同じ。目に映る最初の光景は遠ざかっていく母の背中だ。
彼女が死んだあの日、バージルは独りで隠れ、震えているのが精一杯だった。だが彼の双子の弟は母親によって庇われ、護られていたのだ。
 自分の目では見ていないはずのその様を、バージルはしばしば夢で見ていた。それはつまり、母が自分を見棄てて弟だけを守ろうとする光景だ。母に捨てられ、悪魔に嬲り殺されていく幼い無力な自分の断末魔で幕となる。それは目が覚めた今でも耳の奥にこびりついていた。

「殺されたいだなんてとんでもない、私はまだまだ死にたくないよ」
「だったら」
「私が知りたいのはさ、私が生まれてきた意味だ」

 聞いてもいないのにどうして勝手にべらべらとしゃべりだすのか、バージルは心底理解に苦しんだ。今しがた本気で殺されかけたというのを理解していないのか。
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