第2章 回想
次の日は嫌に乾燥していて、フードで顔を隠していても肌や唇が水気を失っていくのを感じていた。
フォルトゥナの街を軽く歩いた限り、悪魔の出現頻度はそう高くないように思われる。『スパーダの血族』の気配と香りに誘き寄せられたらしい個体は幾つか散見したが、その原因が察せられている以上自分がいない状態のフォルトゥナでは恐らく地獄門の封印がしっかり成されているのだろう。
「おかえり」
古書店の扉を開くと、本棚の間から伺えるカウンターでロックグラス片手にビアンカがそう声をかけてきた。真昼間から飲酒しているらしい彼女からは濃い酒の匂いが漂っていて、思わずバージルは眉間にシワを寄せる。
「臭うぞ」
「ああ、そう?」
彼女はへらりと笑うだけで、ウィスキーを煽る手を止めることは無い。バージルはその横をすり抜けるように立ち入り禁止と書かれた扉に向かいながらその片手に握っていた金貨を彼女の目の前に叩きつけた。
「あとで聞きたいことがある」
「はいはい、夕飯は食べるの?」
三食昼寝付きと自分で言っていたくせに、と睨んだらその眼光だけで降参とばかりに彼女は両手を挙げた。
「直ぐに用意するよ」
缶詰から取り出され温められただけのパスタは妙に水気を吸って伸びていた。