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【DMCバージル夢】父と子と

第10章 蛇足1


 ビアンカが目を覚ました時、部屋はすでに冷え切っていた。空気は静まり返り、微かな夜明けの光がカーテンの隙間から差し込んでいる。
 ──温もりすら、残っていなかった。
 それが何を意味するのか、考えるまでもなかった。彼は、とうに去ったのだ。彼女がまだ夢の中にいる間に、足音ひとつ残さず。ビアンカは微かに笑い、寝返りを打つ。冷たいシーツの感触が肌に触れる。

 「……本当に、いなくなっちゃったんだね」

 声に出してみると、より一層その事実が現実味を増した。昨夜は、なんやかんやと御託を並べた。17歳の少年──バージルが、己の本能に流されるよう言葉を尽くした。彼を口説いたつもりはない。だが、彼が理性と本能の狭間で揺れるのを見て、それをほんの少しだけ後押ししたのは確かだった。……そうしながらも、結局は彼女の方が流されていたのかもしれない。一目惚れに近い、片思い。そんなものを自覚したのは、彼が手を伸ばしてきたほんの刹那のことだった。
 バージルは、どこまでも冷たく、どこまでも強い。 そして、どこまでも遠い人間だった。
 だからこそ──
 自分のものにはならないと、最初からわかっていた。 ビアンカはシーツをたぐり寄せ、毛布を深くかぶる。逃げるように、守るように。それは、まるで今になって彼の温もりを探すような仕草だったが、当然ながら何も残っていない。

 「……戻ってこないよ、あんなやつ」

 彼のような男は、決して振り返らない。それは確信だった。どこまでも冷徹で、どこまでも愚直なまでに己の道を貫く人間。彼がここにいたことすら、もしかしたらすでに忘れているのかもしれない。
 それでも──
 昨夜のことを思い出すと、なんとも言えない気持ちが胸を締めつけた。恋をした相手が、一夜限りで消えてしまったのだから。きっと、バージルにとっては「何でもないこと」だったのだろう。

 「……ま、アタシが勝手に惚れただけか」

 ひとりごちて、ビアンカは小さく笑った。皮肉でもなんでもなく、ただの事実として。それを認めたら、少しだけ肩の力が抜けた。
 ──だから、もう考えるのはやめよう。
 彼はもう戻らない。それはわかりきっていることだ。
 もう二度と会うこともない。だったら、これはただの夢だったことにすればいい。ビアンカは目を閉じ昨夜のぬくもりを、胸の奥にしまいこんだ。
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