第2章 回想
「店はいいのか」と問うと「誰も来ないさ、そもそも外の看板は24時間365日いつだって『準備中』だしね」との答えが返ってくる。
「言うまでもなく魔剣の呼称が指し示すのは魔剣士スパーダそのものだ、この城塞都市フォルトゥナはかつてスパーダが自ら統治していたという歴史があってね。それが彼を崇拝する宗教として、彼がこの街を去った後も根強く残っているわけさ」
「なぜ、スパーダが?」
「アンタもここに来るまでに見ただろう?」
地獄門か、とバージルは低く唸った。
その名の通り地獄へと通じる門は言い換えれば魔界への入口だ。都市のど真ん中に堂々と聳え立つそれは一見した限りでは稼働している様子はなかったが。
「この土地は魔界への入口になりやすい地相だったんだ、スパーダが長い時間をかけてそのたくさんの綻びを地獄門という一点に集約し二度と開かないよう閉じたって言われてる。……彼が持っていた力の一振でね」
「……ヤマト」
「そう、閻魔刀の力で。それが実物? へぇ、初めて見た」
バージルが手にする刀はかつて父が所有していたという武器だ。彼女や彼が称したように『閻魔刀』ないし『ヤマト』という名がある。それには人と魔の両者を分かつ力があるらしく、おそらくその力で人間界と魔界の境を切り離したのだろう。
ビアンカはいつの間にか手に持っていたロックグラスを煽り、中に入っていた琥珀色の液体を飲み干した。あの濃さの酒の臭いを放つには相当の飲酒量だと察せられるくらいには酒豪らしい。とはいえ今現在未成年で、酒を嗜む趣味がない彼にとっては不快でしかないのだが。
「地獄門を固く封じ、スパーダはフォルトゥナを去った。それきり、彼がこの街に姿を現したという話は聞かない……聞かない、が。彼の痕跡がどこにもないとは言わないよ。その血を継ぐアンタに、何かが反応するかもしれないしね」
「この古書店が『スパーダ』を名乗っている理由は?」
ビアンカが言い終えるとほぼ同時、間髪入れずバージルは次の問をぶつけた。が、彼女はへらへらと笑うだけで寧ろその質問がおかしくて仕方がないという様子。